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ネーミングについての秘話
株式会社ユーネット 代表取締役河野純一
株式会社ユーネット 専務取締役河野健
大分県産業科学技術センター 地域資源担当主任研究員斉藤雅樹
名前のない冷却装置
平成16年4月。春の訪れとともに、男たちの熱い思いを詰め込んだ「竹製温泉冷却装置」は、いよいよ本格的に動き始めていた。14日には実用新案登録を済ませ、17日にはプレス発表、そして公開実験と、より多くの人の目に触れる機会が増え、マスコミでもたびたび取り上げられるようになっていた。
しかし困ったことに、肝心の装置の名前がまだ決まっていなかった。各マスコミで紹介される際も「竹製温泉冷却装置」という、なんとも堅くて、長ったらしい名前が使われていたのである。親しみやすく、それでいて一言でこの装置の全てを言い表すような、そんな名前はないだろうか? 装置の完成に喜んだのもつかの間。ふたたび河野社長、斉藤主任研究員、河野専務の3人は頭を抱えることになってしまった。
あーでもない、こーでもないと議論は百出した。『冷えポタ』『竹冷まし』『バンブーマジック』など、“冷ます”や“温泉”、“竹”といったキーワードを元に、いくつもいくつも案があがってきた。
『冷家竹造(ひやしやたけぞう)』などの珍案さえ出た。
しかし、コレだ! という言葉はちっとも出てこない。モヤモヤとした気持ちのまま、時間だけが過ぎていった。
ふとしたきっかけ
気付けば、すっかり辺りは心地よい秋風が吹く季節になっていた。そんなある日、斉藤主任研究員の知り合いで、日本財団に所属する山田吉彦氏が大分に来県することになった。
山田氏はマラッカ海峡などの海賊問題を専門とし、日本における海上安全分野の第一人者である。大分県産業科学技術センターの客員研究員でもあった。
斉藤主任研究員は、温泉好きでもある山田氏を「ひょうたん温泉®」へと軽い気持ちで誘った。ついでに自分の開発した「竹製温泉冷却装置」の実物も見てもらおうと、ひょうたん温泉®の裏手にある装置へと彼を案内した。
斉藤主任研究員は、名無しの「竹製温泉冷却装置」の前で、何気なくそんな言葉を口にした。そう、作家でもある山田氏はかつて、斉藤主任研究員らの開発した杉皮製の油吸着マットに「杉の油取り(すぎのゆとり)」という秀逸な商品名を与えた張本人。ネーミングのセンスはプロ並みなのだ。
ザアザアと滝のような音をたててお湯が流れる、その見慣れない装置を見るや「デカイなあ」と山田氏は感嘆した。そしてその直後、思いもよらぬ言葉が出てきた。
斉藤主任研究員はその言葉を耳にした途端、これだと確信した。
早速、斉藤主任研究員は河野社長、河野専務にもこのネーミングを伝えた。温泉を表す“湯”、冷ますという意味で“雨”、そして素材である“竹”。三つの漢字が全ての要素を語っていた。しかも、今まで出てきた、どのネーミングにも劣らない美しい響きだ。「ゆめたけ」。
ひらがな四字に、思いが全て凝縮されている奇跡のネーミングに思えた。全員が納得だった。
かくして『湯雨竹』は誕生したのである。
「湯雨竹」に託された夢
人工的なものが氾濫する現代、改めて環境や自然というものを見直す動きが活発になってきている。そんな中生まれた『湯雨竹』は、今まさに時代が必要としている装置のひとつだと言っても過言ではない。
その仕組みは何百年の歴史があってもおかしくないような、とてもシンプルなものだ。
しかし、今までこの仕組みに気づき『湯雨竹』のような温泉冷却装置を作り得た人は、誰一人としていなかったのである。
しかも『湯雨竹』のすごい所は、ただお湯を冷ますということだけではないようだ。開発者でもあり、温泉通としても有名な斉藤主任研究員はこう語る。
温泉通をもうならせる『湯雨竹』の効果。彼らが『湯雨竹』に熱くなる理由はここにもあるようだ。
さらに、河野社長はこう語ってくれた。
心から温泉を愛し、その泉質を守りたいという強い思いが生んだ『湯雨竹』。河野社長らのまなざしの先には、全国の湯けむりの中『湯雨竹』が建ち並ぶ日の風景がはっきりと写っていた。
命名者 山田吉彦氏のコメント
別府の街には湯煙が似合う。別府の風は、白い。街のあちらこちらから湯気が立ちのぼり、緑の山に沿うように棚引き風と同化する。そして、いつしか海へと消えて行く。
鉄輪温泉の「ひょうたん温泉®」を訪れると、湯屋の裏側に白い湯気が塊になっているところがあった。目を凝らすとその中に、七夕の笹の葉飾りを逆さにしたような櫓が見えた。白い煙を抱えたままの湯が、短冊のように竹の枝にぶら下がり、五月雨が地面を打つような軽快な調べが響きつづけていた。
別府温泉を訪れる客は、本物の温泉を知っている人が多い。来訪者に本物の湯を味わってもらおうという願いから、熱すぎる源泉を水で薄めず、しかも短時間で、人肌に優しい新鮮な温泉を作りだしたのだ。
別府温泉の願いを込め、天恵の湯を竹に託したのが、「湯雨竹」である。湯雨竹からは、絶えることなく湯煙が上がっている。
いつまでも変わらないでいて欲しい湯景色である。